りぷる対談「企業×ジェンダー=持続的な運動」

札幌市男女共同参画センターでは男女共同参画の意識の浸透と男女共同参画センター機能の周知を図るために男女共同参画情報誌「りぷる」を発行しています。
53号では、「企業×ジェンダー=持続的な運動」をテーマに、 株式会社エトセトラブックス代表の松尾 亜紀子さん、株式会社JobRainbow 代表取締役の星賢人さんに対談をお願いしました。
たいへん濃い内容で、企業×ジェンダーの話題はもちろんですが、ジェンダー平等の運動について私たちが考えていかなければならないことなど、たくさんの気づきや刺激をいただける内容の対談となりました。
紙面は字数が限られておりますが、インターネットは字数に制限がない!ということで、お二人に特別にご協力をいただきまして、全体を皆さんに読んでいただければと思います。
ぜひ、お楽しみください。

対談「企業×ジェンダー=持続的な運動」 対談日:2021年1月21日(木)

松尾亜紀子さん
( 株式会社エトセトラブックス代表  )

星 賢人さん
( 株式会社JobRainbow代表取締役 )

「個に滑らかな社会へのアップデート」を軸に、社会システムを変えていく

―今日はどうぞよろしくお願いいたします。最初に、事業やご自身の紹介からお願いします。

星賢人さん(以下、星):株式会社Job Rainbowは「自分らしく誇らしく差異を彩に」をビジョンとしています。違いをいろどり、組織とか企業にとっての強みに変えていけるような社会を創ることを目指しています。そして、事業としてのミッションは、「個に滑らかな社会へアップデート」。現代社会でこれだけライフスタイルやワークスタイルが多様化している中でマイノリティ性を持たない個人っていないですよね。それぞれがもっているマイノリティ性に関して、生きづらさを抱える現代個人をエンパワメントするだけではなくて社会の側、システムの方も変えていかなければいけないという想いをこめて、「個に滑らかな社会へアップデート」というのを事業の軸としています。

創業の経緯ですけれども、私自身がLGBTのG、ゲイの当事者です。そのことに気づいた中学校時代にはめちゃくちゃいじめられていたので、2年生から3年生にかけての一年半不登校になりました。大学に入った時に、同じように悩んでいる人がいるのではないかと思いLGBTサークルの代表になりました。

当時仲良かったトランスジェンダーの彼女は高校生まで男性として過ごしてきたんですけども、大学入るときに女性として入学をされて、すごく学校生活を女性として謳歌されていたんです。ただそんな彼女が大学年生の終わりに始まった就職活動で、この会社なら大丈夫かな?と思い彼女がカミングアウトをしたところ、「あなたみたいな人は、うちの会社にいないので帰ってください」と言われたり、「エントリーシートとか履歴書を出すにしても、性別欄の男女どちらに〇をつければいいかわからない」と自分自身が悩んだり。そういうところでスタートラインに立つこともできず、就活も諦めて大学も中退するということが目の前で起きていました。LGBT当事者であるというのは全く仕事能力に関係がないにもかかわらず、そこで判断されてしまうということにすごく悔しさがありました。

少子高齢化の中、労働人口が減っていく日本社会で多様な人材活躍ができないというのは、社会にとっても大きな損失だなというのを感じております。当事者にとっても社会にとってもウィンウィンな関係づくりをするということを目指して株式会社JobRainbowを2016年の1月に立ち上げ、5年ほどが経過した会社になります。

現在メイン事業としてはLGBT向けの求人情報サイトJobRainbowの運用をしております。2019年度の実績でいうと毎月50万人ほど最大55万人ほどの方にアクセスいただいている日本最大のLGBT向けの求人プラットフォームです。私個人としましては、大学院のころにLGBTやジェンダー、セクシュアリティについて研究し学んできました。今は東京都板橋区の男女平等参画審議会を努めながら行政のまちづくりアドバイザーをさせていただいたり、企業様・大学機関様に講演会だとか研修コンサルティングなども提供させていただいているということもあり、アメリカの経済誌Forbsの30歳以下の若者30人に選んでもらったり、ヒューレットパッカードさんのCMに出演させていただいたり、テレビでコメンテーターなどもさせていただいています。本日はどうぞよろしくお願いします。

まだ伝えられていない女性たちの声を届けるフェミニストプレス

松尾亜紀子さん(以下、松尾):よろしくお願いします。私はエトセトラブックスというフェミニスト出版社の代表をしています。まだ伝えられていない女性の声を届ける出版社ということで、まだ伝えられていない女性の声が無限にあり、フェミニズムの形も個人の数だけあります。社名には、これまで「エトセトラ=その他」とされてきた女性たちの声を届けるという思いを込めています。

主な刊行物としては『エトセトラ』というフェミマガジンを年2回発行しています。身近なテーマからフェミニズムを知るためのマガジンとして、毎号責任編集を変えて発行していくスタイルをとり、責任編集がその時一番伝えたいテーマを特集しています。1号目は、田房永子さんが責任編集で「コンビニからエロ本がなくなる日」でした。この号は2019年5月15日に出版したのですが、この年の8月に一斉に大手コンビニが成人誌を撤去するというニュースを受けて特集しました。私たちが生活必需品を購入するインフラに近い場に、子供にも見える形で激しいポルノコンテンツが長年置かれていた。他の国ではありえないことが、なぜ日本では許されてきたのか。撤去されること自体はいいけれど、問題をなかったことにはしたくなかったんです。実際に、現在、もう大手コンビニには成人誌は置かれていませんよね。

2号目は「We♥Love 田嶋陽子!」。80年代から活躍されている「日本で一番有名なフェミニスト」の田嶋陽子さんを特集しました。第3号のテーマは「私の 私による 私のための身体」。身体は今後も継続して取り上げていくテーマですけれども、まずは美容ライターとして活躍されている長田杏奈さんにお願いして、今の身体の問題を概論的にピックアップしました。最新号 (※インタビュー当時) が「女性運動とバックラッシュ」です。職場において女性だけにハイヒールを義務付けることは性差別であるという、#KuToo運動を展開されている石川優実さんと一緒に作りました。大体どの号も2,000部、3,000部からのスタートなんですが、版を重ねて大体6,000部まできています。今後も売れ続けていくとは思いますが、現時点でおおよそ6,000人の読者がいるということになります。

他には、年に4冊くらい単行本を出版しています。研究書や小説、名著の復刊……フェミニズムの本でさえあれば、ジャンルは定めていません。私がフラワーデモという性暴力を根絶するデモの呼びかけ人でもありますので、その活動を記録した本『フラワーデモを記録する』なども出しています。牧野雅子著『痴漢とはなにかー被害と冤罪をめぐる社会学』は社会学の研究書です。海外作家の場合は、なるべく日本で初めて紹介したいという思いがあり、カルメン・マリア・マチャドというクィア作家の、身体性をテーマにした『彼女の体とその他の断片』(小澤英実、小澤身和子、岸本佐知子、松田青子訳)も出版いたしました。ヴァージニア・ウルフの短編小説も出しています。ウルフはすごく有名な作家ですが、弊社刊の『ある協会』(片山亜紀訳)、はデビュー作に近い作品でまだ日本で紹介されていなかったので、出版を進めました。

2021年1月14日からは出版社と同名の小さなフェミニスト書店をオープンしました。古今東西のフェミニズム本を集めた書店として、週に3回営業しています。以上の事業内容を、私が代表として1人で始めて、今は3人のスタッフでやっております。

私は15年間くらい河出書房新社という、いわゆる「老舗」と呼ばれる出版社で編集者として勤めていましたが、2011年頃から意識的にフェミニズムとジェンダーの本を作り始めました。もともと女性に向けて本を作りたいと試みてはいたのですが、震災後の社会や政治が悪くなる一方で、きちんと主張しないと世の中はよくならないと思いいたりました。

2017年頃から、アメリカではトランプ元大統領に抗議するウィメンズ・マーチや#MeToo運動が起こり、その第4波フェミニズムの波が日本にも来て、#MeToo以前にも伊藤詩織さんが自身が受けた性暴力被害を顔を出して訴えていました。同時に、2010年代に入ってから、日本ではSNS上で女性たちのフェミニズムの声が可視化されていた流れもありました。SNS上で、自分が編集した本への感想もよく目にしていましたし、女性たちが日々感じる性差別への怒りなどが爆発寸前になっていると感じていました。

それならば、これまでと同じ本をつくるにしても、総合出版社の1ジャンルとしてではなく、独立してフェミニズム出版社を名乗ったら、かえって読者を広げられるのではないかと思ったんです。そんなとき、2018年8月、東京医大が女性受験者の点数を一律下げていたという報道がなされました。驚いたと同時に、やっぱりこの国はこうなんだなというのを実感して、翌日、作家の北原みのりさんらと東京医大の前でデモを行いました。報道も多数なされましたし、ツイッターで「#私たちは性差別に怒っていい」というハッシュタグを発信したら、10万人くらいの方がそのハッシュタグで自分の性差別への怒りを表明する様子も目の当たりにしました。発信者としてすごく背中を押されたというか、私もはっきりフェミニズム専門を名乗ろうと、2018年12月に起業しました。

インターネットのなかで、裸で闘うことへの絶望と希望

松尾 先ほど月に55万人のサイトへのアクセスがあるとおっしゃいましたけど、すごい数ですね。

星:求人情報サイトJobRainbowの主な流入経路としては、グーグルとかヤフーの検索流入というところが一番大きいです。例えば「LGBT 転職」で調べていただくと、当社のサイトがトップに出てきます。LGBT関連のワードや就職関連のワードで検索しても、同様です。

松尾:情報を求めてアクセスしてくるのは、セクシュアルマイノリティの当事者や企業の担当者と考えればいいですか。

星:そうですね、本当に色んな方がいらっしゃって、当事者の方で悩んでいらっしゃる方はもちろんですし、LGBTについて知りたいというニーズを持っている方もいらっしゃっいます。最近LGBTの就職転職の不安を解消する本も出版させていただいたんですけれど、そちらに書いてある内容もブログ記事やメディアに出しているので、そういう悩みを解消したいとか、企業さんに弊社がコンサルティングしているノウハウを無料で公開もしていますので、企業さんが変わりたいと思っていらっしゃって、見ていただいたり、サイトを活用していただいているというのが大きいかなと思います。

そのお話を聞くと未来に少し希望がもてるように思えます。

星:本当に世の中の動きと連動していると感じています。当社のサイトは検索流入がすごく多いので、世の中の変化というのがダイレクトにくるんですね。例えば、テレビとか新聞とかメディアとかでAセクシュアルについての報道とか特集があった時に、Aセクシュアル関係のページからの流入が増えたりするんですよね。特別積極的に情報を取りに行かない人にとっても、やっぱりLGBTとかフェミニズムというのはすごく身近になってきました。テレビとか新聞とかって受動的なメディアですよね。積極的に情報を取りに行かなくても情報が手に入る。そういうところでも取り上げていただく機会が増えたので、結果として検索という行動に移す方も増えてきたのではないかと感じます。

先ほどのお話の第4波フェミニズムは、オンライン、SNSというのが変化のベースにあるのではないかなと思っていて、これらが今後もすごく大事な柱になっていくのかなと私は思うんです。一方でオンラインのツイッターなどを見ていると、心無い発言だったり中傷などで見ていて辛いものがあるというか…、やっぱり酷いコメントや粘着質なユーザーがいらっしゃったり。オンラインが議論の場として今後どう成熟していくのかというのが、すごく私としては気になって危惧しているところもあります。そこに関してオンライン上のフェミニズムとかLGBTの運動というのがどうあるべきか、松尾さんのお考えや感じられていることってありますか?

私も今日はまさにそれを星さんにお伺いしたいと思っていました。2000年代のフェミニズムへのバックラッシュ以降、男女共同参画センターの方たちもよくご存じだと思うんですけれど、たくさんのフェミニズムの運動、言説がバッシングにあって潰されてきました。そんな歴史がある中で、SNS、特にツイッターというツールは、さっきも言いましたが、女性たちの自分たちの内面を発露する装置として、近年すごく機能してきたと思うんです。その一方で、SNSでフェミニズムが盛り上がると、今度はネット上のバッシングも酷くなってきました。ツイッターは文字数制限があるので、すぐに強い言葉に振り回されるし、分断が生まれたりもする。私、「ツイフェミ」っていう言葉とか、すごく失礼だと思うんですけど。

星:失礼ですよね、本当に(笑)

すごく失礼な蔑称ですよね。フェミニストたちがツイッターなどSNSのツールを得て発信しても、それをアンチ側が「ツイフェミ」と呼称して貶めようとして、その言葉に女性自身も振り回されてしまったりする。攻撃する側が悪いんですけど。だからそのような事態に対抗するためにも、ネットで得た知識だけで「裸」で闘うんじゃなくて、フェミニズムの本を読んで言葉を得るのも大事なんじゃないかなと。それでネットに戻りたい方は戻ればいいし、戻らないっていう選択をする方もいるだろうし。特に日本のSNSはツイッターが中心になっているので、私はこのままだとネットの運動にそんなに希望は見いだせないと感じてしまっていました……。

星:なるほど。なるほど。

ただ#MeTooや#KuToo運動がネット上で広まったように、ハッシュタグを使った運動に可能性はあると思うんです。星さんはどう思われますか?

星:そうですね、女性も、LGBTも、今まで世の中ではあまりひとりの人間として扱ってもらってなかったですよね、歴史的な文脈とかを見ても。例えば、文学においても、そういった方々が主語として出てくることがすごく少なかったりします。LGBTという存在に関しても、もちろんそういった人たちがいるということは色々な歴史的な文、書物にもありますけれども、なかなか2000年代に入る前には日本国内だと陽が当たってこなかった存在だと思うんです。やっぱりインターネットの登場、普及の影響は大きかったし、とそういった意味でマイノリティとの親和性は高いメディアなのかなと思います。

匿名性が非常に高く、かつ拡声器になるので、人と違った意見ほど拡散力があり、共感を呼び、マイノリティ同士でつながることが出来る。だからフェミニズムとかLGBT、ブラック・ライブズ・マターなどの人種差別の問題が、今ここまで大きくなっています。色んな歴史的な流れでそういった差別が背景にはあるものの、結局そこで団結できているのは明らかにインターネットというオンラインプラットフォームができたからかなと思っておりまして、そういう意味ではオンライン、インターネットというのが重要な位置づけに今まではなってきたかなと思います。ただ同様に今あらゆる側面において政治を含めてですけど、やっぱり分断が起きているのもインターネットというメディアを通じてなので、これからに関しては私もお話したかった今日のテーマでもあります。向き合い方とか考えていかなければならない段階に入ったかなと思います。

ただ、私はすごく楽観主義なので、基本的には良い方向に進むと思っています。それをすごく感じるのが、例えばティックトックなどは中学生と高校生が利用するメディアを見ていると、本当にマイノリティの方がスターになっているような側面もあるんです。それがもちろんまだ本当にいい状態かはわからないですけど、ゲイの高校生が、自分がゲイとして嫌なこととか、自分の高校生で同性カップルが出てきたりとか。自分が高校生の頃は絶対考えられませんでした。絶対にカミングアウトできなかったし、絶対に言えないと思っていました。

そうじゃなくてカミングアウトして、それがオンライン上でスターとして尊敬される存在になれているのがLGBTや障害を持っている方です。そういう方々がどんどん出てきていて、それを通して思うのがインターネットが生まれながらあった世代にとってはインターネットって、先ほどの裸でぶつかっているような状態というところでいうと、生まれながらにあるからこそ裸というか本当にその場もソーシャルなリアルに近い場として結構利用されているのではないかと思っています。そういうところでいうと、自分よりも1世代か2世代下だとインターネットとの向き合い方がわかっている方が多いと思います。もっと上の世代とかにも伝わっていくと、インターネットはリアルなメディアになって、今後ピークを迎えたら暴言や中傷が減るということが起きていくのではないかと私は感じています。

あーすごい! 確かにそうですよね。10代20代を見ていると、上の世代とは違いますね。今、始めて希望が持てました私!(笑)

星:(笑)

松尾:コロナ禍で発信の場所がリアルからオンラインに移って、発信が一方的なものになりがちだからこそ、どこから・誰が発信するのかが問われるし大事だと思っていました。それが私がコロナを経て書店をはじめたきかっけでもあるのですが、若い世代は新しいオンラインの場を育ててるんだなと改めて。

星:今聞いて思ったんですが、ツイッターはテキスト情報、しかも文字が短文です。ブログほど深い考察と深い議論というのが発信できないメディアでもあると思います。短いからこそ誤って伝わってしまったり、誤解が生まれやすい。見る人によって全然違う捉え方をしてしまう。ティックトックは、とても情報量多いんですよね。動画なので。誰がしゃべっているのか、どんな人が話しているのか、どういう感情で喋っているかがわかります。文字だったら怒って言っているように見える人もいれば、まじめに話しているようにも見えますし、ふざけているようにも見えます。動画ってそういう部分では齟齬が少ない。受け取り手と発信したい人が伝えたいことが結構一致しやすいメディアかなと思っています。今後通信なども5Gになっていく中で、動画発信などがメインになっていくと思うので、すごく希望を持てますよね。

運動とビジネスの狭間でー。

―これまでのフェミニズムというのは、研究者や行政など、特別な人、専門的な人が担うイメージだったと感じています。それが、テレビとかで関心がない人が、そういった情報に接する機会が増えてきたということなのですね。そこに企業や会社も関わってくると、これからどんなことが起きていくと思いますか?―

これまでの、とおっしゃいますけども、たとえば70年代のウーマンリブでは、一般の女性たちが、運動しながら、ときには一緒に生活をしながら場を作り、声をあげてきました。その後、女性学が前面に出てきて「学問」というイメージが強調されたり、行政とより絡んできたりしたという流れがあります。戦前だって、有名な「青鞜」とか「女工」のストライキとかありますし、元来は運動であり、女性一人ひとりのための思想だった。だから、もう一度そこから始まっている、あるいは刷新しながら進んでいる、ということでしょうか。

次に、「ビジネスの視点」というテーマについてですが、実は、今回対談をお受けするか迷ったんです。私は、ビジネスありきでフェミニスト出版社や書店を始めたわけではなく、運動だと思っているんですね。運動だって無償ではできないわけで、出版や書店が私やスタッフ2人の「メシの種」になり、作家の原稿料になるということで、お金が回っているわけですけど、だから企業でフェミニズムをやる意味をどうお答えすれればいいのか迷いがあります。

星:そうですね。誰のためのフェミニズムなのか、誰のためのLGBTの運動かというと、それは明らかに女性のためであるし、LGBTのためだと思うんですよね。フェミニズムに関して、私もたまに言葉をためらってしまうことがあります。フェミニズムにおいては男性にとってもすごくいいことだよねとかよく言いますよね。それは本当にそう思うんですよ。私はすごくジェンダーというものに苦しめられてきて、それは同性が好きだから、ゲイだからと言う一点だけではなくて、男らしく振る舞わないといけない、男の子だから泣いちゃダメとか、男の子がピンクを好きじゃダメ、…そういうことで苦しめられてきたので。確かにそれは自分にとってのフェミニズムでもあるんですけど、本当の意味でのフェミニズムがどこから始まっているかというと、ちゃんと女性だと言わないといけないのではないかと思うんです。

究極、誰のためかと言ったら女性のためだし、LGBTの取り組みはLGBTのためなんですよ。そこはやっぱりブレては、いけないところかなと思って、我々も慎重に軸を分けていかなければいけないなと思っています。企業にとってのフェミニズムであったりLGBTの取り組みっていうのは、あくまでそういった主体がより生きやすくなっていくことであったり、課題解決に向かっていくということだと思います。

企業がフェミニズムについて知るというのは、例えば伝え方として、企業が作っている商品を広告メッセージとかで炎上リスクを低減していくことという伝え方をしています。でも、それは運動の一部でしかないので、そこをちゃんと我々が伝えるときには、やっぱり履き違えないで企業の活動や経済の活動に取り入れつつやっていかなければいけない。これが今アメリカなどで課題視されています。LGBTとかフェミニズムを経済性と一致させてしまったことで、その経済性がないマイノリティの優先度が企業内でめちゃめちゃ下がってしまったんですね。

ホームレス課題や貧困問題の解決に企業が動かない。なぜLGBTとかフェミニズムに関してやるかというと、社外にもいる優秀な人材が社内に魅力を感じて入社してもらったり、従業員に活躍してもらうためにLGBTの取り組みだったり女性が働きやすい環境を作るというのは、当然やっていくことにメリットがあるわけです。メリットがないことはやらないという選択肢もそこに優先順位が生まれてきてしまうので、弱者の選別というのが今アメリカでは大きな課題になってきているんです。私はそこをすごく問題視しています。そういう部分で、今、個に滑らかな社会の想像ということでLGBTだけに関わらず、課題は根本的に同じ部分にあるので、総論としてダイバ―シティ&インクルージョンという概念でしっかり企業が色んな人権意識を高く持ったり、LGBT、ジェンダー課題、多国籍の課題、障害を持っている方の課題をみつめていきたいというところです。

どんな課題にも個人に向き合える環境をつくるというのが、今、企業内で求められていることかなと思っています。私は松尾さんが活動の中でやってらっしゃることに尊敬を感じているんですけども、一方で、松尾さんの会社の中で従業員の方もいらっしゃって、それはサステナブルな運動になると思うんです。

私は学生時代にLGBTのNPO法人などにも関わったりしていたんですけど、結局すごく優秀な方がいても、本業で1日8時間働かないといけなくて、NPOの活動を1日1時間2時間しか作れないとか。しかも手弁当だから交通費とかご飯代とかは払わなくてはいけない。となると、継続性がなくなってしまうんですよね。それが結局、運動自体も継続性がなくなることとイコールになってしまう。それが嫌で、会社として、しっかり求人サイトという形で運営しながら企業の中のLGBTの環境改善をしていき、収益性という両方を担保した形でバランスを取ろうと、挑戦中ではあります。そこではじめて企業としてやる意味があるかなと感じているところです。

そうなんですよね。フェミニズムを商売にしていることの矛盾というか、星さんだったらLGBTを商売にしているって、そういう批判もありませんか?私のところも、たまにですけど、フェミニズムなんて資本主義と対立するもののはずなのに利益を追求しているエトセトラブックスはリベラル・フェミニストだーとか言われて、え、何?うちがですか?ってびっくりする(笑)。そういった批判は星さんのところには来ませんか?

星:いやいや、めちゃめちゃ来ますよ(笑)。

めちゃめちゃくるでしょう(笑)。でも、さっきのお話のとおり、運動だとしても持続可能にして、関わっている皆がそこで食べていくってことはすごく大事ですよね。実際、全然儲けていないし!(笑)

星:ほんとうにそうですよね。だったらもっとやれることいっぱいありますよね。

そうそう。私の会社の話からは外れるんですけど、今注目されているビジネスとしてフェムテックがありますよね。昔からフェミニズムの観点で取り組んでいる企業がある一方で、どんどん新しい企業が参入している。でもやっぱり、その分野もフェミニズムが前提になければ、女性の身体がただの商売のツールになってしまう。フェムテックで助かる人がいたり、便利になったりするんだったら応援したいけど、経済力のある人だけが快適な身体を享受できるのかという問題もあります。色々課題はあるから簡単ではないからこそ、企業側がフェミニズムの視点を置き去りにしないようにしたい。LGBTもそうですよね、多様性=生産性の拡充みたいになるのではなく、何のために運動をやっているのかというところが、置き去りにされてはいけない。

星:そうですよね。

ダイバーシティの根っこにあるもの。企業が知っておくべきこと。

―ダイバーシティな企業とか社会ってどんなことだと思いますか?―

星:ダイバーシティというのは直訳すると多様性で、つまり組織の中だったり、社会という部分で言えば多様な人がいる、多様なバックグラウンドの人がいる、それは大きく2つあって、見える違いを持った方々と、見えない違いを持った方々。この組み合わせというのが多様な人を形成しているかなと。見える違いでいえばジェンダーというところで、どういう性表現されているのかというのも含まれますし、人種ですよね。肌の色や違いでしたり年齢の違いとか。


見えない違いというところでLGBTもありますし、その方の国籍だったり、宗教の違いとか、もっと言えば経験とか価値観とか個性とかそういうところまで踏み込んで見えない違いがあるのではないかなと思うんです。ダイバーシティな社会とは何かというと、ダイバーシティな社会というのをそのまま受け取ってしまうと、何も意味をなしていないと思っています。つまり単純にダイバーシティは多様な人がいるという状態でしかない。事実状態しか示していないんですよね。私達がよく言うのは企業の方がダイバーシティ推進をするので、女性を採用したいですとか障害を持っている方を採用したいですとかLGBTの方を採用したいとか言うんですけど、それをやっても何も意味がないと伝えています。ダイバーシティというのにはインクルージョンという概念とセットで考えないといけないと思います。


つまり、多様な人がいて、それをちゃんと組織として社会として受け入れていくとか包摂していく、需要していくという観点が必要になってくるんですよね。それがなければ男性5人のチームに女性の方ひとりが入ってきて、その方が他の男性と同じような意見を発しないといけないとか、男性社会のノリに合わせなきゃいけないとか、彼らから求められる女性像を演じなきゃいけないとなった時点で何も意味がないですよね。確かにそこに女性という属性が増えるので、多様性は増えているかもしれないんですけど、インクルージョンでなければその方は個人として力を100%120%発揮することはできないし、傷はそれで解消しないと思っているので、ダイバーシティな社会というよりはダイバーシティ&インクルージョンの社会。


当たり前に目の前の人が一人ひとり違うということをちゃんと認識する。その認識に基づいて、尊重し合う。そして、それによってマイノリティが安心感を持ってその場に居ていいんだなとか、居場所を感じられるということ、これがダイバーシティ&インクルージョンで社会にとっても組織にとっても大事になってくるポイントなのではないかなと思います。

そうですよね。フェミニズムの視点とかダイバーシティとかを取り入れても、旧来の権力構造のままだったら変わらずそこで差別によって人が踏みつけにされるわけで、なんの意味もないですよね。星さんが啓蒙活動されている様子、LGBTを商売にするなと言っている人たちにほんとうに聞かせてあげたい(笑)。星さんも運動されているんだなって思いました。

星:ありがとうございます。家父長制を組織から排除していくというのは単純に大事だなと思います。いろんな会社にと思いますね。男性で年齢が高い人に権力が集中していく組織とか、そういう権力構造っていうのを打破していくというのが結構直近まだまだ日本企業では必要だなと思っていますし、本当に多いですね。

おじさん達は、「うちダイバーシティなんだぞ、えっへん!」とか言っていますけど、おたくの組織の家父長制を崩したいんですよ、あなた達の地位危ういですからねって(笑)

星:(笑)

あ、でも、あなたの地位が危ないんですって言ったら多様な人材を採用しなくなるのか……?

星:そこは上手くやらないとダメですよね(笑)。

お2人からのメッセージ ー過去を知り、言葉を獲得し、サステナブルな運動を。

―最後に最近ジェンダーについて知り始めた若い人たちに向けてお2人からメッセージをお願いします。―

星:お伝えしたいことは2つあります。ひとつ目は、一次情報に触れていく、そういう本であったり、どのようにフェミニズムとかLGBT論が成り立ってきたのかというのは、ぜひ若い方々に知ってほしいということ。若い方々は社会環境が変わってきている。ジェンダーとかLGBTに関しても人によっては当たり前。当然、享受できるものと感じ始めている若い方々も多くなってきたと思うんですよね。ただそういう人達に言いたいのが、それはあなた達が当たり前に手に入れたものではなく、自分よりも上の先輩たちが活動してきた中でやっと獲得できた、その人達が本当に夢見ていた世界が今若い人達の世代で実現し始めているということなんですよね。なので、それを当たり前と享受しているだけだと、その後バックラッシュが起き、歴史が繰り返されてしまうと思うんです。そういう部分でどのようにフェミニズムとかLGBT論が成り立ってきたのかということを知ってほしいっていうのがひとつ。

後もうひとつが、自身の持っている特権性みたいなものに気づくこと。自分はゲイなんですけど、男性でもあります。男性という視点ではマジョリティだなという特権性をもっていると感じさせられるんです。それが私自身は実の姉と起業しているんですけれども、やはり自分が話すときと姉が話すときで明らかに態度の違うおじさんがいたりします。クレームの電話がきても女性の声ででると高圧的にでてくる男性がいて、自分が変わるとおとなしくなる人がいるところをみても自分には身体的特権性があるなと。ぜひ若い人達にはそういうマジョリティサイドの方、シスジェンダーやノンセクシュアルで、自身が持っている特権性に対して敏感になることができると、より世界に対する理解が深まるし自分を知る機会も深まると思うんですよね。だから、若い方達ほど本だったり一次情報に触れたり、歴史をちゃんと振り返ること、もうひとつは自身の持っている特権性みたいなものに気づくことでマイノリティを見つめ直すということ。この2つをしてもらえると、ジェンダー、フェミニズム、セクシュアリティについて世の中がもっと加速していくのではないかなと思います。

ジェンダー視点で世の中を見たり、フェミニズムを知ると色々なことに怒りが湧いてくると思うのですが、ひとりの力で誰かや、何かを変えるのはすごく難しいです。出版に携わる者としては、本と対話すれば、折れない力を少しずつでも蓄えられるんじゃないかなと思います。そして、社会を変えるにはフェミニスト同士が連帯することがとても大事です。その場合も本を介せば、話が通じることもあるし、その逆も残念ながらあるかもしれないけれども、自分の言葉や場所を一緒に獲得するプロセスになると思います。

あと、星さんがおっしゃったとおり、「女性」といっても、経済格差であったり、ジェンダーアイデンティティの違いであったり、色々な差異があります。フェミニズムは昔からそういう「差異」を交差させながら運動しつづけてきたものなので、今後も自分の中の差別性をも見つめながら、止まっちゃいけないって強く思います。